相続放棄の手続きについて/3か月経過していてもあきらめないでください

2019/05/21

今回のコラムでは、相続放棄手続きを取り上げます。

相続が生じると、プラスの財産だけではなく、負の遺産(債務)も相続人に承継されます。

様々な事情で、相続を受けたくないとお考えの相続人は、「相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」相続放棄をすることができます(民法915)。

これは、家庭裁判所へ「相続放棄の申述(申立て)」をするという手続きを行う必要があります。

よく「遺産を何ももらわない」という意味で「私は、相続放棄した」と言う方がいますが、これは、法律上の「相続放棄」とは異なりますので注意が必要です。

相続放棄の申述をして、受理されると、その方は「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」(民法939)と規定されていますので、プラスの財産も債務も承継しなくなります。
 
なお、相続放棄の申述(家裁へ申立てること)をしてから、家裁がその相続放棄を受理するまでの間は、実務上、相続放棄申述の取下げができるものとされていますので、相続放棄申述をしてしまったけれども、何かの事情で考えが変わった場合には、相続放棄申述の取下書を家裁へ提出することで、相続放棄申述を取り下げることができる場合があります。

さて、前述のとおり相続放棄は、「相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」、家裁へ申述をしなければなりませんが、この「相続の開始があったことを知った時」とは、どのような時点をいうのでしょうか。
相続が発生したこと(被相続人が亡くなったこと)を知ってから、3か月経過してしまった場合には、相続放棄ができないのでしょうか。

必ずしもそうではありませんので、被相続人が亡くなってから3か月経ってしまっている場合でも、あきらめることはありません。

この3か月の起算点である「相続の開始があったことを知った時」とは、実務上は「自分が相続人となり、かつ、その相続財産の状態、すなわち相続の放棄をするのか、単純に相続するのか等を判断するために必要な遺産の全部ないし一部の状況等を知った日又は通常知ることができた日」と柔軟に解釈されています。

よくご相談があるケースとしては、「一応、父親(被相続人)が亡くなったことは知っていたけど、亡くなってから1年~2年後に、債権者から『あなたは相続人だから借金を支払ってください』という通知がきた。この通知がきてからは3か月経ってないが、相続放棄できるか」というご相談です。

このケースでは、未だ「相続の開始があったことを知った時」から3か月が経過していませんので、相続放棄の申述をすることができます。

ですので、相続から3か月が経過していても、相続放棄をすることができる場合も多くありますので、あきらめることはありません。

また、相続放棄の実務のことを申し上げると、もちろん家庭裁判所は、その相続放棄の申述が法律の要件を充たしているか審査しますが、実際のところはそれほど厳格には審査していないのが実情です。

相続放棄の申述がなぜ今のタイミングになったかの理由をしっかりと述べることができれば、かなり遅くなった相続放棄でも受理されることがあります。

仮に「真実としては相続放棄の申述が期間を遵守していなかった」場合でも、家庭裁判所の審査を通り、相続放棄が受理されていたときに、債権者がその相続人に対して金員支払いの訴訟を提起した場合には、その訴訟の中で、相続放棄が有効なのか、無効なのかの判断がされることになります。

しかし、通常の債権者は、相続放棄の申述受理通知書(又は証明書)を提出すれば、訴訟までは提起してこず、相続放棄が有効であるという前提で処理を進めることが多いのが実情です。

したがいまして、何かの事情で相続放棄が遅れてしまったとしても、自分だけの判断であきらめるのではなく、弁護士へ相談したうえで、ともかく家庭裁判所へ相続放棄の申述をしてみるということも重要です。

相続放棄についても、是非ご相談ください。

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【参照条文】
民 法
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
 
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

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