遺留分侵害額の算定方法について(平成30年改正相続法シリーズ)

2020/01/13

平成30年の民法改正(相続法改正)によって、令和元年(2019年)7月1日以降に発生した相続における「遺留分」の制度が大きく変わりました。

今回は、2019年7月1日以降の相続における具体的な遺留分侵害額の算定における「重要なポイント」を解説いたします。

 

遺留分算定の基礎となる財産の価額の計算方法


各人の遺留分を算定するための計算方法は、まず「亡くなった方(被相続人)の亡くなった時点で有している財産額」に「相続開始前1年間にした贈与の額」及び「特別受益に当たる贈与については相続開始前10年間にした当該贈与の額」を加え、「被相続人の債務の額」を控除した額を算出します。

一例をあげると、亡くなった方が、亡くなる時点で、5000万円の価値の不動産、1000万円の預貯金を有していたとします。また、この方は、生前に長男に対して1000万円の特別受益に当たる贈与をしていたとします。

この例の場合に、特別受益たる生前贈与が、被相続人が亡くなる10年以内であれば、遺留分算定の基礎となる財産の価額の計算方法は次のとおりになります。

◇ 5000万+1000万+1000万=7000万

一方、特別受益に当たる生前贈与が、10年よりも昔になされたものである場合には、遺留分算定の基礎となる財産の価額の計算方法は次のとおりとなります。

◇ 5000万+1000万=6000万

 

遺留分侵害額の算定


上記のような場合に、被相続人に長男のほかに次男がいるとして(相続人はこの二人)、被相続人が、例えば「次男に全ての財産を相続させる」という内容の遺言書を作成していたとします。

この場合に、長男が遺留分を請求する場合の具体的な遺留分侵害額はどうなるでしょうか?

前述の長男に対する特別受益が相続開始10年以内である場合には、長男の遺留分侵害額は次のとおりとなります。

◇ 7000万円×4分の1(遺留分割合)=1750万ー1000万(自身が受けた特別受益)=750万

一方、長男に対する特別受益が相続開始10年より前であった場合には、長男の遺留分侵害額は次のとおりとなります。

◇ 6000万×4分の1=1500万ー1000万(自身が受けた特別受益)=500万

以上のように、特別受益については、10年より前・後という区別により、「遺留分算定の基礎となる財産の価額」の計算には、入れる・入れないという判断をしますが、遺留分請求権者が、その特別受益を受けた者である場合に、具体的な遺留分侵害額の算定にあたっては、時的な制約なく控除することに注意が必要です。

この点は、専門家でも誤った知識を有している方が多くいるものと思われる重要なポイントになります。
この計算方法の理由は、民法1046条2項1号を見ていただければわかるとおり、具体的な遺留分侵害額の算定について、遺留分請求権者が受けた特別受益は時的な制限なく控除することとされているからです。

さて、上記の例で、「長男に全ての財産を相続させる」という内容の遺言書が残されていた場合(遺留分請求権者が次男の場合)の、次男の具体的な遺留分侵害額も算定してみましょう。

長男に対する特別受益が相続開始10年以内である場合

◇ 7000万×4分の1=1750万(次男の遺留分侵害額)

長男に対する特別受益が相続開始10年より前であった場合

◇ 6000万×4分の1=1500万(次男の遺留分侵害額)

以上のとおり、今回の相続法改正によって、遺留分の算定は、より複雑なものとなったと感じます。
アンバランスな気がしますが、遺留分算定の基礎となる財産の価額の計算には、特別受益に関して10年という時的問題があり、計算に入れる・入れないという計算をしますが、遺留分請求権者が当該特別受益を受けた者である場合に、具体的な遺留分侵害額の計算においては、時的な問題なく当該特別受益額を控除することになります。

遺留分の問題について、お困りの方は是非ご相談ください。




 
 (遺留分を算定するための財産の価額)
第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
 
第1044条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

 
(遺留分侵害額の請求)
第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
 一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
 二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
 三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額


 

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