限定承認手続の具体的な実践について

2020/04/07

ある方が亡くなって相続が発生した場合に、その相続人の取り得る手続きは、次に3つあります。

① 承認する(遺産も負債も引き継ぐ)
② 相続放棄する(遺産も負債も引き継がない)
③ 限定承認する

今回は、上記③の「限定承認手続き」について、ご説明したいと思います。

 

限定承認手続きとは?

「限定承認」とは、相続によって得た財産の限度で負債を弁済することを留保してする相続の承認手続きをいいます(民法922条)。

この限定承認は、共同相続人全員が「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述(書面を提出)する必要があります。


 

共同相続人全員で行う必要がある/相続放棄した者はどうなるのか?

上記のとおり、限定承認の申述は、共同相続人全員で行う必要があります。
例えば、亡くなった方(被相続人といいます)の妻と子2人が相続人である場合、この3名全員で限定承認手続きを行う必要があります。誰か一人でも限定承認を行うことに反対する者がいる場合には、原則、限定承認手続きは行えないこととなります。

ただし、相続放棄をした相続人がいる場合には、その相続人は初めから相続人とならなかったものとみなされるため(民法939条)、限定承認の申述に反対する者に相続放棄してもらうことができるのであれば、相続放棄をしてもらい、残りの相続人全員で限定承認を行うことができます。

例えば、上記の妻と子2名が相続人の例で、妻と子1名が相続放棄した場合には、残りの子1名だけが相続人ということになりますので、この子1名だけで限定承認の申述を行うことができます。


 

限定承認はどのような場面で利用されるのか?

では、限定承認手続きは、どのような場面で利用されるのでしょうか。

まず考えられることは、被相続人のプラスの財産とマイナスの負債額が不透明な場合です。このマイナスの負債については、例えば会社の債務を連帯保証している方が亡くなった場合などもふくまれます。

次に、おそらくマイナスの負債の方が大きいが、遺産の中に自宅や車など、どうしても相続人において取得したい遺産がある場合に利用されています。

これには、後述する先買権の行使という方法が必要となります。


 

限定承認の手続きについて

民法927条では、限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、全ての相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を2か月以上の期間の公告しなければならない、と定めています。

また、
知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をすることとされています。

上記の公告は、官報で行いますが、注意しなければならないは、官報公告をする日が「限定承認をした後5日以内」と非常に短い点です。

これは限定承認が受理された日から5日以内という意味ですが、そもそも、受理日というものは裁判所が決めるため、予想がつきません。
また、官報公告の手続きも、順番待ち等があるので、官報発行機関に頼んだら即日や翌日に公告を出してくれるわけでもありません。

したがって、実際上の動きとしては、できる限り正確に、限定承認の受理日を裁判所書記官から聴取しておき(はっきりは教えてくれないことが多いのですが)、それに併せて、官報発行機関とも事前に打ち合わせをしておく必要があります。
なお、私見としては、官報公告が限定承認受理後5日を過ぎてしまうケースもあろうかと思いますので、その場合でも、限定承認受理日からできる限り近接した日で官報公告を行うべきと考えています。

限定承認者は、限定承認の受理がなされた後に順次、遺産たる預金を解約する等し、これを原資として最終的に債権者へ弁済を行います。
全額を弁済することができればよいのですが、完済できないときは、按分割合で弁済を実施します。


 

遺産の売却/先買権の行使について

債権者への弁済についての原資をつくるために相続財産の売却が必要な場合には、原則として裁判所を通しての競売手続きによって売却しなければならないとされています(民法932条本文)。

しかし、競売手続きは、非常に煩雑になりますし、誰がいくらで競落するかわからないため不確実です。

そこで、遺産の中に自宅や自動車など、相続人がどうしても取得したい遺産がある場合には、先買権を行使する方法でその相続人自身が遺産価値を支払い、これを取得することができるとされています(民法932条ただし書)。

具体的に、私が代理人弁護士として先買権行使に携わったのは、自宅不動産、自宅内の家財動産、被相続人が代表者であった会社の未上場株式です。

先買権を行使するには、限定承認後に、家庭裁判所へそれぞれ先買権の対象物ごとに鑑定人選任の申立てを行います。
不動産であれば「不動産鑑定士」、自社株式であれば「税理士」、動産であれば「古物商」といった方々を鑑定人候補者として立てて、家庭裁判所へ申立てをします。

横浜家庭裁判所の運用としては、特別問題がなければ、申立人が立てた候補者が、そのまま鑑定人に選任されているようです。

選任審判後、それぞれの鑑定人に鑑定をしてもらい、その鑑定額以上の額を先買権行使として、取得を希望する相続人が、自身のお財布から支払います。

ここで、「誰に」支払うのかと疑問に思う方がいらっしゃると思います。

限定承認手続き上、相続人が複数いる場合には、その中から相続財産管理人を選任することとされているため(民法936条)、その相続財産管理人となっている相続人がいる場合には、その者へ支払いを行います。
相続人が一人であったり(当然ですがその人が先買権者)、先買権の行使者が上記の相続財産管理人である場合には、いわば、「自分」が「自分」に支払うということになります。

なお、限定承認者に代理人弁護士が就いている場合には、弁護士の預り口座へ入金してもらい、先買権の支払いとします。

この鑑定額以上の支払いをもって、先買権の対象物たる遺産は、その先買権を行使した相続人固有の財産となります。

この支払額は、後の債権者への支払いの原資となります。

なお、不動産に抵当権がついている場合には、この先買権の支払い額をもって、抵当権者へ残債務額を支払い、抵当権を抹消してもらいます。


次に、遺産中に上場株式があった場合の換価方法について述べたいと思います。なお、上場株式の換価方法ついて言及した文献を発見できていないため、あくまで私見となります。

上場株式については、市場価額があるにもかかわらず、競売をすることは大変迂遠に思います。
また、市場価額があるにもかかわらず、鑑定人を選任して鑑定することは意味がないとも思われます。

そこで、私見としては、知れたる債権者へ催告するときに、「上場株式については、適宜、市場にて売却換価することといたします。もし、ご異議がある場合には、〇月〇日までにご連絡ください」のような付記をして、異議がなければ市場での売却に同意したものとして、市場で売却換価する方法がよいのではないか、と考えています。


 

限定承認手続きにかかる期間の目安

さて、限定承認手続きは、およそどのくらいの期間で終了するものでしょうか。
あくまで一例ですが、実際に私が手掛けた限定承認手続きは、およそ次のようなタイムスケジュールで、約半年で終結しています。

6月中旬 横浜家庭裁判所へ限定承認の申述
8月中旬 限定承認受理審判 
 ※若干の補正があったこと、そもそも裁判所が限定承認手続きに不慣れだったこと等から受理審判まで時間がかかりました
 ※申述から受理までの間に、相続人本人へ裁判所から意向調査書面が送付されて、これに回答する手続きがあります
8月中旬 官報公告 及び 催告
8月中旬 横浜家庭裁判所へ先買権行使のための鑑定人選任申立て
11月前半 鑑定人選任の審判
11月中旬 鑑定人から債権者への通知
12月前半 鑑定作業実施
12月前半 遺産たる預金の解約手続き完了
12月中旬 自宅不動産等について先買権の行使(鑑定額の支払い)
12月後半 不動産の登記手続き
12月後半 準確定申告による譲渡所得税の納税
1月後半 各債権者へ按分割合での弁済を実施して終了


 

限定承認手続きを弁護士に任せた場合の費用

以上のとおりに、限定承認手続きは、時間もかかり手続きも非常に複雑ですから、限定承認を行う方は、弁護士へ依頼することをお勧めいたします。

ケースにより異なりますが、当事務所で限定承認手続きの依頼を受ける場合のおよその費用は次のとおりです。
なお、不動産登記をする場合の登録免許税や鑑定費用などの実費は、別途かかります。

着手金30万円(税別)~
報酬金30万円(税別)~



横浜で「限定承認」をお考えの方は、是非ご相談ください!
TEL 045-594-8807
メール予約はこちらへ


PAGE TOP