株券『不』発行会社に変更するには-事業承継の法務(基礎編)-

2022/07/07

はじめに

事業承継を進めるためには、多くの場合、その会社の株式の移動が伴います。

これは、承継先の方(次世代の社長など)に、株式を移動する必要があるためです。

株式会社において、株式を移動させるためには、その会社が「株券を発行する会社になっている」場合には、「株券」(株券という紙)の移動も必要となっています(相続の場合を除く)。

「うちの会社は、株券なんて無いから大丈夫だよ」と思われた社長様もいらっしゃるかと思いますが、会社登記簿上、「株券を発行する会社」(「株券発行会社」)になっている場合には、まずは、「株券を発行しない会社」(これを「株券『不』発行会社」といいます)に定款変更+登記をしないと、株券の交付なくして株式の移動をすることができませんので、注意が必要です。


 

「株券発行会社」か、「株券『不』発行会社」かの確認

自社が「株券発行会社」か、「株券『不』発行会社」かを確認するには、まず、自社の会社登記簿(会社登記事項証明書)をご覧ください。

会社登記簿の中段くらいに、「株券を発行する旨の定め」という欄があり、「当会社の株式については、株券を発行する。」という記載があれば、その株式会社は、実際には株券を作成していても、いなくても「株券を発行する会社」であり、株式を移動(株式の売買や贈与等)をするには、株券を交付しなければ、その株式の移動は法的には有効となりません(会社法128条)。

反対に、会社登記簿に、「株券を発行する旨の定め」の記載がなければ、その株式会社は、「株券『不』発行会社」であり、株式の移動に株券の交付は必要とされません。

なぜ、このように「株券発行会社」と「株券不発行会社」に分かれるのかですが、平成18年に施行された会社法以前は、株式会社は、原則として「株券」を発行することが原則となっていましたが、現実的に、「株券」を発行している株式会社が少なかったこと等から、平成18年に施行された会社法では、「株券」は原則として発行しない(存在しない)ものとすることとされました。

しかし、会社法施行前からある株式会社については、以前の原則である「株券を発行する会社」のままとなっており、これを廃止する定款変更+登記をしなければ、現実に「株券」が存在しても、しなくても、「株券を発行する会社」ままとなっています。

したがって、会社法施行前より存在する会社で、将来的にも「株券」を発行しないということであれば、事業承継を行う際の株式の移動の前には、まず、「株券『不』発行会社」に変更する手続きが必要となります。

繰り返しになりますが、「株券発行会社」では、株式を他者へ移動させる(承継させる)には、「株券」(という紙)の交付が必要となり、この「株券」の交付がないと、株式の移動(承継)が法的に無効になってしまうのです。


 

株券不発行会社へ変更する手続

具体的に、株券『不』発行会社にする手続きをご案内します。

(1)株券発行に関する定款の定めの廃止(株主総会の特別決議)
株券を発行する旨の定めは定款に規定されていますので、株券を発行する旨の定めを廃止するには、株主総会の特別決議により定款変更を行います。


(2)公告・株主等への通知
株券を発行する旨の定めを廃止する定款変更をするときは、以下の①~③の事項を定款変更の効力発生日の2週間前までに公告し、かつ、株主等に個別に通知をする必要があります(会社法218条1項)。

① 株券を発行する旨の定款の定めを廃止する旨

② 定款の変更の効力を生じる日(効力発生日)

③ 効力発生日において株券が無効になる旨

なお、株式の全部について株券を発行していない場合には、公告又は通知をすれば足りるとされています(会社法218条3項、4項)。

【公告と通知の基準】
現に株券を発行している会社     公告 かつ 通知 
現に株券を発行していない会社      公告 又は 通知

なお、公告方法が官報公告の場合には、公告掲載の申込から、実際の掲載まで日数がかかります。また、公告料金が、およそ3万円~4万円程度かかります。


(3)会社の登記申請
株券を発行する旨の定めの廃止の効力発生日から2週間以内に登記申請を行います。
登記必要書類としては、次の添付書類が必要となります。なお、株主等への通知書は、登記申請時の添付書類としては必要ありません。

① 株主総会議事録

② 公告したことを証する書面 又は 株式の全部につき株券を発行していないことを証する書面

上記の「株式の全部につき株券を発行していないことを証する書面」とは、具体的には「株券不発行」等と記載がある株主名簿になります。

なお、この登記の登録免許税は、3万円になります。

 

終わりに

このように、事業承継の前提問題の一つをとっても、複雑な手続が必要となる場合があります。
事業承継の手続については、後日のトラブルが生じないように適正に手続を進める必要があります。

事業承継問題をお抱えの方は、是非ご相談ください。


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