相続Q&A【相続人の一人が無償で被相続人名義の建物に居住している場合】

2023/06/27

質 問

父が亡くなり、相続人は子が3人(長男、二男、三男)です。そのうちの二男が、父の生前から、父名義のマンションに父と同居をしていました。二男は、当然のごとく、賃料は支払っていませんでした。

(1)父が亡くなった後も、二男は、無償でマンションに住み続けられるのでしょうか。他の相続人(長男と三男)も法定相続分があるのですから、二男に対して、少なくとも法定相続分とおりの家賃を請求することはできませんか。

(2)父と「同居」していた場合と、同居ではなく単に父名義のマンションに無償で住んでいた場合で違いはありますか。

 

回 答

被相続人(亡くなった方・ご質問では父)の生前から、被相続人と無償で同居していた相続人(本件では二男)については、相続開始を始期、遺産分割時を終期とする建物の使用貸借契約(無償で借りること)が成立していたとする最高裁判決があります(最高裁平成8年12月17日判決)。

(1)したがって、父と同居していた本件の二男は、遺産分割協議が成立するまでは、無償でマンションに住み続けることができるものと考えられます。
相続人3名で、遺産分割協議が成立し(又は家裁の遺産分割審判がされ)、本件のマンションが相続人間の共有となった場合については、二男は、他の相続人に対して、他の相続人のマンション持分に応じて賃料相当額を支払う必要があるものと考えられます。
また、遺産分割協議(又は遺産分割審判)の結果、本件マンションが、二男以外の者のものとなった場合には、二男は、賃料相当額の支払義務のみならず、退去を求められる可能性もあるものと考えられます。

(2)上記の最高裁平成8年12月17日判決は、被相続人と生前に「同居」していた場合の判決ですので、被相続人と同居ではなく、単に父名義のマンションに無償で住んでいた場合では、上記(1)と異なる結論になる可能性もあるものと考えられます。

 

解 説

遺産に建物があり、生前から相続人の一人が無償で住んでいることがあります。

その場合、建物の名義である被相続人が亡くなった後、遺産分割協議が成立するまでの間は、建物の権利関係は、法定相続分で遺産共有の状態となり、他の相続人が「少なくとも賃料を払ってほしい」と考えるのは無理もないことかと考えます。

生前、相続人の無償で被相続人名義の建物に住むことを被相続人が許諾していた場合、両者の間には使用貸借契約が成立していると考えられますが、いつまで無償で居住し続けられるのかは、様々なケースが考えられます。

上記の最高裁判決は、被相続人と相続人の一人が「同居」していた場合の判決であり、その他のケースにおいては、相続開始後、いつまで、相続人が無償で居住を続けられるかは、個別の事例判断になるものと考えられます。

なお、被相続人と同居していなかったケースにおいても、諸事情を考慮して、やはり上記最高裁判決と同様に、「遺産分割時」を終期として認定して、遺産分割以後については、当該建物の共有者となった他の相続人に対して、その共有持分割の賃料相当額を支払うことを命じた裁判例があります(東京地方裁判所 令和2年10月23日判決)。


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