株券の移動を伴わない株式の譲渡の有効性について

2023/06/29

会社の事業承継において、自社株式の承継は重要な問題です。
会社の重要決定は、株主総会で行うため、株式は、会社経営の根源ともいえるからです。

自社の株式を、後継者へ譲渡する場合、その会社が「株券を発行する会社になっている」場合には、原則として、「株券」(株券という紙)の移動も必要となっています(相続の場合を除く)(会社法128条)。

自社が「株券を発行する会社になっている」場合で、事業承継をお考えの際には、まず、自社を「株券を発行しない会社」へ変更する手続きをすることをお勧めいたします。
(コラム:株券『不』発行会社に変更するには-事業承継の法務(基礎編)-)

では、株券発行会社のままで、株券の発行・交付を怠った状態で株式の譲渡を行い、会社がこれを長期間放置していたような場合にまで、当該株式の譲渡は無効となってしまうのでしょうか。

この点、最高裁昭和47年11月8日判決では、会社が不当に株券の発行を遅滞し、信義則に照らしても、株式譲渡の効力を否定することを相当としない状況となった場合には、株主は、意思表示のみで株式を有効に譲渡することができ、会社は、株券発行前であることを理由として、その株式譲渡の効力を否定することはできない、と判示されています。

上記最高裁は、当時の有限会社から株式会社へ組織変更してから約4年間、株券の発行をせず、さらに株式譲渡から約3年後に、会社がその株式譲渡の効力を株券の交付がないことを理由に争ったという事案において、会社は、その株式譲渡の効力を否定できないとされています(その他諸要素も判断材料とされています)。

株券発行会社において、株券の移動を伴わない株式譲渡の効力が否定されるのか、又は、会社からその譲渡の効力を否定することができないとされるのかは、個々のケースにおける判断になると思われますが、いずれにしても、株券を発行するという会社になっている場合には、事業承継における株式の譲渡には、十分注意が必要です。

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会社法第128条(株券発行会社の株式の譲渡)
 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。
2 株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。

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